国立天文台と産業技術総合研究所が研究協力協定を締結

国立天文台と産業技術総合研究所(産総研)は、包括的な研究協力協定を2024年3月18日付で締結しました。両機関はこれまで過去10年以上にわたって共同研究を行い、世界最高水準の天文観測用可視光モード同期フェムト秒レーザー周波数コム(天文コム)の開発に成功しました。この開発によって、天体の精密視線速度測定による太陽系外惑星探索において、第二の地球に至るための検知能力向上の道が拓かれました。

本協定を機に、今後はその協力関係をさらに発展させます。上記の天文コム技術の応用研究に加え(注1)、両機関の強みを生かし、超伝導デバイス技術や遠隔計測の研究を推進することで、社会課題解決を目指します。具体的には、大規模量子コンピュータや次世代電磁波検出器の研究(注2)、火星衛星探査ミッションでの形状モデル開発と内部構造研究(注3)の加速が期待されています。

(注1)天文コムの応用研究

産総研は高精度な波長標準であるレーザー周波数コムを長さの国家標準として運用しており、その開発と応用において先端的な研究を総合的に進めています。国立天文台は天体の視線方向の運動による天体光の波長の変化(ドップラー偏移)を捉える手法(ドップラー法)により、太陽以外の一般の恒星の周りを巡る太陽系外惑星の発見や特徴づけを行ってきています。この先、第二の地球、さらには第二の太陽系の発見を目指しており、ドップラー法の測定精度の向上に取り組んでいます。その鍵を握るものの一つが、これまで以上に高精度の波長標準であり、国立天文台と産総研が協力することで、産総研の持つレーザー周波数コム技術を天文観測用に発展させ、第二の地球検出を到達可能とする天文コムの実現に成功しています。今後は、両機関の協力により、天文観測への適合度を一層追求したより高性能な天文コムの開発を進めるとともに、天文観測装置との結合技術、データ解析技術を向上させながら、研究目標の達成に挑みます。

(注2)大規模量子コンピュータ、次世代電磁波検出器の研究

産総研は超伝導クリーンルームQufab(キューファブ)を有し、平坦化技術を用いた世界最大規模の集積度と高い作製歩留まりという強みを生かして量子コンピュータの開発等を行っています。一方、国立天文台は先端技術センターのクリーンルームにおいて、ALMA望遠鏡に用いるミリ波サブミリ波帯の検出器として世界最高性能の超伝導体―絶縁体―超伝導体(SIS)素子等の超伝導デバイスを開発してきました。近年、SIS素子を量子コンピュータ用の超低雑音読み出し増幅器やアイソレータ等の周辺回路に用いる独自の研究開発を行うなど、超伝導技術の社会実装を目指しています。両機関の技術融合により、世界的に競争となっている大規模量子コンピュータや次世代電磁波検出器の開発が大きく加速されることが期待されます。すでに両機関は、研究者のクロスアポイントメントによる人的交流を深化させており、この取り組みを今後さらに発展させるだけでなく、将来はクリーンルームの一体運用も視野に入れ、超伝導デバイスの世界的研究開発拠点となることを期待しています。

(注3)火星衛星探査(MMX)ミッションでの研究

「はやぶさ2」ミッションにおける国立天文台のレーザー高度計技術と産総研の画像取得技術を融合させた複合解析技術をさらに発展させ、不規則形状天体の地形モデルを生成するための光学観測最適化に関する研究を行います。特に、MMXミッションにおけるフォボス形状モデル生成を題材にして、MMXに搭載されている光学カメラTENGOO/CAM-Tでの最適な撮像方式について解析します。データサイズの制約がある中でも高精度の形状モデルを得ることを目的として、フォボス周回軌道上から日照・指向条件を考慮した撮像の時刻・位置・姿勢の設計を目指します。

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