電波ミッション機器チーム

電波天文学は、天体が発する電磁波の中でも波長が長く、目で見ることのできない「電波」の領域を観測します。先端技術センターでは、東アジア・北米・ヨーロッパの諸国および南米チリによる国際協力プロジェクトによって、チリ・アタカマ砂漠に建設したアルマ望遠鏡(ALMA:Atacama Large Millimeter / submillimeter Array)や、長野県にある野辺山宇宙電波観測所をはじめ、国立天文台が国内外に所有する電波望遠鏡の搭載装置の開発や、大学および関連機関の電波天文観測装置の開発サポートを行っています。

アルマ望遠鏡用受信機

先端技術センターでは、アルマ望遠鏡搭載用の3周波数帯 (バンド4、8、10)の超高感度超伝導受信機を開発し、2014年2月に合計219台の製造・出荷を完了しました。出荷した受信機は現在アンテナに搭載され、観測に使用されています。また、アルマ望遠鏡ではそれぞれ受信機開発元が責任を持つため、先端技術センターでは各バンドの受信機保守体制を維持しています。

アルマ2に向けた技術開発

国立天文台では、アルマ望遠鏡の機能強化を目指す「アルマ2」計画に向けて技術開発を進めています。現在のアルマ望遠鏡の同時受信帯域に比べて少なくとも2倍以上の広帯域化を目指し、先端技術センターでは受信機フロントエンドや信号伝送システムの開発を推進しています。

アステ望遠鏡 ・ 野辺山45m望遠鏡

アステ(ASTE:Atacama Submillimeter Telescope Experiment)は、アルマ望遠鏡から10kmほど離れた場所で国立天文台が運用する直径10mのサブミリ波電波望遠鏡です。また、野辺山45m電波望遠鏡は、野辺山宇宙電波観測所で約30年運用されている国内最大のミリ波電波望遠鏡です。先端技術センターでは国内外の研究機関や大学と協力し、これらに搭載する新規クライオスタットや搭載受信機を開発、アップグレード、サポートしています。

クリーンルームファシリティ

超伝導体-絶縁体-超伝導体(SIS)ミキサをはじめとする、電波天文観測に必要不可欠な超高感度超伝導デバイスの開発をクリーンルームで行っています。サブミクロンオーダーの微細加工技術を用いて、高臨界電流密度接合、超伝導検出器や集積回路、光学素子など、最先端のデバイスを作製しています。

電波カメラ

可視光・赤外線と同様に、電波でも広視野観測を実現するために電波カメラを開発しています。MKID (Microwave Kinetic Inductance Detector)と呼ばれる超伝導マイクロ波共振器を用いた超高感度検出器やレンズを2次元アレイ化することより、多ピクセル化を目指しています。

テラヘルツ技術

南極からの高解像度テラヘルツ観測を目指して、超伝導光子検出器を用いた強度干渉計を試験中です。30㎝望遠鏡2台を南極新ドームふじ基地に設置して、天体強度の高速変動(ナノ秒スケール)を用いた天体画像合成を計画しています。
写真は、この技術検証を行うための極低温実験装置です。低背景放射環境を実現することで、天体テラヘルツ光子の高速計数も実現します。

基礎技術

時刻周波数伝送技術の研究

高精度に位相同期した周波数や時刻信号を大型アレイアンテナなど多数かつ遠隔地のサイトに配信するための研究を行っています。信号が光ファイバー中を伝搬する際の精度劣化を補償することにより高精度な信号を原子時計のないサイトで使用することができます。通信分野への応用も期待されています。

超伝導増幅器の研究

ミリ波サブミリ波帯のダウンコンバータとして利用されてきたSIS接合を用いた新しい原理のマイクロ波増幅器の研究を行っています。SISミキサを2つ用い、その周波数変換時に得られる変換利得を利用した、マイクロワットオーダーの消費電力で広帯域低雑音増幅効果を得ることができます。磁性体を用いないサーキュレータ回路への応用も可能で、量子コンピュータ分野への応用も期待されています。

マイクロファブリケーション技術の研究開発

シリコン基板上にマイクロメートルサイズのミリ波・サブミリ波回路を実現するための微細加工技術を開発しています。この技術は、電波天文観測用のマルチビーム受信機をコンパクト化するための基礎技術です。また、テラヘルツ帯の準光学部品への応用も期待されています。

新着情報

電波
本センター特別共同利用研究員が宇電懇シンポジウム最優秀発表賞を受賞

先端技術センターの丹羽綾子特別共同利用研究員(発表当時 筑波大学博士後期課程2年)が、2024年3月に行われた宇電懇シンポジウムのポスター発表において最優秀発表賞を受賞しました。丹羽さんは筑波大学の宇宙観測研究室に所属し […]

電波
次世代電波観測装置に関する学会発表において、本センター職員が奨励賞をダブル受賞

先端技術センターの増井翔プロジェクト研究員(発表当時、同センター特別共同利用研究員および大阪府立大学 博士後期課程3年)が、第84回応用物理学会秋季学術講演会にて講演奨励賞を、2023年電子情報通信学会ソサイエティ大会に […]

評価
ミリ波/テラヘルツ帯の正確な誘電率計測技術を確立
―電波望遠鏡の受信機開発からBeyond 5G/6G用材料の開発に貢献― 

クレジット:国立天文台 国立天文台と情報通信研究機構の研究者らから成る研究チームは、絶縁体の電気的特性を従来よりも100倍正確に測定できる解析方法を考案しました。この技術は、電波望遠鏡に搭載する受信機の開発への貢献だけで […]

社会実装
超小型マイクロ波アイソレータを可能にする新原理の実証に世界で初めて成功
―大規模量子コンピュータや多素子電波カメラへの応用に期待― 

概要 国立天文台の増井翔特任研究員らの研究チームは、将来の量子コンピュータに必須となるマイクロ波アイソレータの超小型化を可能にする基礎原理を世界で初めて実証しました。これは、電波望遠鏡の受信機にも使われる周波数ミキサを2 […]

社会実装
冷却型としては超低消費電力なマイクロ波増幅器の実証に成功
~電波望遠鏡の受信機から量子コンピュータへの応用に向けて

概要 国立天文台の小嶋崇文准教授らの研究チームは、これまで電波天文観測用に利用されてきた電磁波検出素子を増幅素子として用いる新しい概念の超伝導マイクロ波増幅器を考案し、従来の冷却型半導体増幅器より消費電力が3桁以上低い高 […]