先端技術開発が拓く重力波天文学

宇宙からの微かな重力波を観測することで、従来の天文学では得られなかった宇宙の新たな姿を描き出すことができます。先端技術センターでは、日本の大型低温重力波望遠鏡 KAGRAが必要とする主要なコンポーネント(光学機器や防振装置など)の設計製作を行っています。

KAGRA

KAGRAは東京大学宇宙線研究所を中心に、国立天文台と高エネルギー加速器研究機構を柱として国内外の研究機関で推進する国際共同プロジェクトです。日本初の本格的な大型の重力波望遠鏡で、岐阜県飛騨市神岡の池ノ山に埋設されています。望遠鏡という言葉で想像される姿と異なり、それぞれが3kmにも及ぶ2本の坑道をL字型に掘削し、そこに敷設した真空容器の中をレーザー光が往来するという大規模なマイケルソン干渉計が検出器の本体です。
重力波、すなわち微弱な時空の歪みの周期的変化をとらえる程の繊細な感度を保つには、干渉計を構成する鏡をあらゆる雑音から守る必要があります。そのため、地面振動が小さい(東京の1/100以下)環境を建設地としたうえで、鏡には多段の振り子状の防振装置を導入しています。とくに重要なミラーについては、熱雑音を避けるため-250℃近くまで冷却します。
先端技術センターでは、これまでに他の望遠鏡・検出器の装置開発で培ってきた技術力を生かし、これら鏡の防振装置をはじめ、干渉計が今の姿になるための大部分の装置、すなわち3kmのレーザー光軸のモニターや迷光対策など光学系と機械系が融合したさまざまな装置の設計、製造から設置までを行ってきました。また、KAGRAが次に目指す性能向上で必須となるサファイア製の鏡の開発にも貢献しています。 

3kmレーザー光軸のモニター

長さ3km の光共振器の光軸の揺れを検出する装置です。先端技術センターでは設計から組み立てと試験、そして現地への設置までを一貫して行いました。

光学装置部

透過型望遠鏡をベースにした設計で、直径1m の真空槽内でビーム径の縮小率1/10を達成するため光軸は折り返しています。

防振台部

振り子による受動防振と、搭載した各種のセンサー、アクチュエーターによる能動制振を組み合わせた防振台です。

迷光の対策

重力波検出器の迷光対策の基本は、光学バッフルを適切に設置して迷光の影響を遮断することです。先端技術センターではこれらの光学バッフル装置の設計製作に貢献してきました。
この写真は低温槽の内部で、中央下部にはメインミラーが吊ってある様子が見えます。そのすぐ左隣にメインミラーからの散乱光を遮断するバッフルの一部が見えています。このバッフルも防振されています。

ミラーの懸架

レーザー干渉計を構成するミラーを多段の振り子状の装置で懸架して、地面振動の影響を低減します。

縦防振フィルター

マルエージング鋼の板バネを組み合わせて作った GAS (geometric anti-spring)機構を用いて、大きな変形と荷重に耐える長周期(2.5 秒以上)縦バネ振り子を実現しました。

中段おもり

重心を変化させてバランスをとる機構や、各種センサー、アクチュエータを備えています。

トラバーサー

防振装置の質量を支えつつ、真空中でもスムーズに装置の並進と回転をするための機構を備えた装置です。縦防振フィルターがこの上に搭載されます。

反跳おもりとミラー

反跳おもりは、懸架されたミラーの運動とバランスをとるためのもので、ミラーを取り囲むような形状です。電気伝導度の影響も考慮して64チタンで製造されました。写真には内側の鏡とともに写っています。(赤い膜状のものはミラーの表面をチリやほこりから保護するための薬剤によるものです。)

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